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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)49号 判決

控訴人(被告) 東京都地方労働委員会 (参加人) ノースウエスト航空日本支社労働組合 外一名

被控訴人(原告) ノースウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張及び証拠

原判決事実摘示及び当審証拠目録記載のとおりである。

ただし、次のとおり付加訂正する。

一  原判決の訂正

原判決二五枚目表九行目の「め」を「ぬ」と訂正する。

二  当審での当事者の主張

1  控訴人ら

(一) 被控訴人は、昭和六〇年一一月一五日付で、予約課に関して次のような昇格等の人事を発表した。すなわち、スペースコントロール・スーパーバイザーの小林政弘がスペースコントロール担当をはずされて、スーパーバイザーグループの監督者になり、ジユニアの松村健が旅客課に配転されてコンピユーターインストラクターのタイトルを与えられ、シニアの中村勝美が営業課に配転された。そして、予約課の今村健、立川一昭、旅客課の山口ヨシノリの三名がジユニアから予約課のスーパーバイザーに各昇格した。その結果、現在の予約課の構成は、マネージヤー一名(梶田)、アシスタント・マネージヤー一名(橋本)、スペースコントロール部門のスーパーバイザー一名(立川)、スーパーバイザー三名(小林、今村、山口)、シニア二名(佐藤、村山)、ジユニア約四〇名となつた。従来予約課員約四〇名で、マネージヤー一名、アシスタントマネージヤー一名、スペースコントロール部門を除いたスーパーバイザー二名、シニア六名であつたのだから、現在は少なくともシニア四名が欠員となつていることになる。

(二) 右の人事は、本件の不当労働行為性を裏付けるものである。

第一に、今村、立川、山口の三名がジユニアからシニアを飛び越してスーパーバイザーに昇格していることで、その狙いは本件が係属しているため、誰であつてもシニアに昇格させることを避けているのである(すなわち、被控訴人はジユニアからシニアへの昇格の必要性がない、と主張するのである。)。

第二に、ジユニアからスーパーバイザーに昇格した三名がいずれも非組合員であるということである。今村は昭和六〇年七月に、立川は昭和六〇年一〇月に、それぞれ組合を脱退しており、山口はもともと反組合の立場であつた。このように現在予約課で昇格できるのは組合を脱退している者だけである。今村及び立川の組合脱退は、昇格の直前といつてよいが、これが偶然でないことは説明するまでもあるまい。

第三に、中村が予約課から営業課へ、山口が旅客課から予約課へ、松村が予約課から旅客課へ配転されたことである。被控訴人において配転は原則として本人の同意が必要であり、三人はむしろ配転を希望していた。そして三人とも非組合員である。なお、予約課から営業課への配転は給与も上がるので昇格の一種といえる。このように、昇格のみならず、配転の希望がかなえられるのも非組合員だけとなつている。

以上述べたように、現在では組合員である限り昇格はできず、配転の希望もかなえられないということであり、これらの事実からしても、本件の不当労働行為性は明らかであるといわなければならない。

2  被控訴人

(一) 控訴人ら主張の1の(一)の事実は認める。ただし、そのうち「小林政弘がスペースコントロール担当をはずされた」と記載されているのは相当でない。小林は職務の遂行上問題があつてその担当を「はずされた」のではなく、より責任の重い職務に任命された結果スペースコントロール担当でなくなつたにすぎない。

(二) 控訴人らは、一一月一五日付の人事は組合脱退者及び非組合員のみを昇格させるものであつて組合員を不利益に扱つていることが明らかであるから、かかる事実は本件の不当労働行為性を裏付けるものであると主張しているが失当である。

右人事は、予約課のみならず、その他の会社の全部門を通じて行なわれた全体的人事異動の一環であつて、この全体的異動においては勿論組合員も対象になつており、また異動は公平な客観的評価に基づいてなされているものであつて、組合員であることを理由とする差別は全くない。右の予約課の人事において今村、立川、山口の三名がジユニアからシニアを飛びこして、スーパーバイザーに昇格したのは、最近における航空業界の競争の激化のために、会社の営業政策として、従前は予約課における全部の勤務シフト(土、日を含む週七日のシフト)を通じて、週日の夜間(一八時以降)及び日曜のシフトはシニア以下の職員だけでカバーしていたが、昭和六〇年一一月一五日以降はすべてのシフトについてより高い統轄権限をもつ職員を配置するということに方針を変更したこと、及び予約課の受付電話に新しいシステムを導入し、従前は予約課員の大部分が予約電話の繁閑に関係なく常時電話に対応するシステムになつていたのを、新システムの下では特定の責任者が電話受付予約課員の業務の実情を的確に判断し、受付の業務を適宜特定の予約課員のグループに集中するよう指揮命令することにしたことなどから、スーパーバイザーを増員する必要が生じたからである。また、ジユニアからシニアを飛び越してスーパーバイザーに任命されるというようなことは必ずしも異例のことではなく、発券課の加瀬はジユニアからいきなり横田のマネージヤーに、客室乗務員課の荒木、清島の両名はジユニアあるいは一般課員からスーパーバイザーに、車輛整備課の藪本、斉藤らはジユニアまたは一般のエージエントからいきなりマネージヤーに、営業課員になつた荒木、中村らは他部署のスーパーバイザーまたはシニアから営業課員になつているのであるが、同じく営業課員になつた荒金、佐々木らはジユニアからいきなり営業課員になつているのであつて、しかもこれら昇格等の対象となつた者のなかには相当数の組合員が含まれている。このような実態からしても、業務の実情に合わせ適切と認められた場合には、昇格は必ずしも順を追つて逐次昇格するのではなくジユニアからスーパーバイザーあるいはマネージヤー等に昇格することも何ら異例ではなく適材・適所の人事が実行されている。管理職の人事としても橋本は現にアシスタントマネージヤーの地位にあるが、同人は原審判決(四五丁裏)においても認定されているとおり、昭和四五年八月に六人を追い越してシニアに昇格し、シニアとしては、いわゆる後輩であつたが、その後間もなくスーパーバイザーをとび越してアシスタントマネージヤーに任命され、マネージヤーに次ぐ重要な地位についている。また、スーパーバイザーに昇格した今村は昭和五三年一〇月中村がシニアに昇格した当時、既にマネージヤーミーテイングで中村とともにシニアの候補者として推薦され当時の管理者からシニア昇格を打診されたが、今村が「十分心の準備ができていない」として推薦を受けなかつたため昇格が見送られ、中村が昇格したものであつて以前からその能力に対して高い評価をうけていた者である。以上の次第であるから、最近における予約課の人事において今村外二名の者が新たにスーパーバイザーに任命されたことは業務上の必要性とこれをみたすに足る同人らの能力が評価された結果であつて何ら異例ではなく、被控訴人の組合敵視や組合対策とは無関係である。

なお、控訴人らは、予約課においてスーパーバイザーに昇格した三名がいずれも非組合員であり、そのうち二名は昇格の直前に組合を脱退しているところから、昇格と組合脱退は偶然ではないなどとして、あたかも被控訴人が組合の脱退をそそのかし組合に介入したかのごとき主張をしているが、何ら根拠もないものであり、これまた見当違いと言うべきである。組合員の脱退については、昭和五〇年頃当時の組合執行部が次期組合役員に立候補する者を執行部の推薦するものに限定するというやり方をしたところから一部の組合員が反発し、「民主的組合運営を求める有志」なるものが結成されるなどして当時の組合執行部との対立状態が公然化し、それ以後毎年のように組合脱退者が出ているのであつてこのような組合員の脱退は全く組合内部の事情によるものであり、被控訴人とは無関係である。したがつて、脱退の件について未だかつて一度も組合から会社に対し、抗議等がなされたことはない。

次に、会社と組合とが昭和三五年以降継続して毎年のように締結している労働協約書においては、当該労働協約が適用される職種を別表として添付し、労使間にはこれら別表に記載されている職種の従業員が組合によつて代表される従業員であり、そこに記載されていない職種の従業員は非組合員乃至管理職として扱うという長年の慣行が存在していた。そしてスーパーバイザーは初めからこのような職種には含まれておらず管理職として認識され、スーパーバイザーの候補者として推薦されこれを受け入れる意思を示した者は例外なく任命前又は任命後に組合から脱退する手続をとつていた。予約課でスーパーバイザーに任命された前記二名の者も、従前のスーパーバイザー候補者の選定任命の場合と何ら異なるものではなく、同人らの組合脱退はあくまでも自主的判断によるものであり会社は一切介入していない。

また従前の昇進・昇格の事例において対象となつたものをみてみると、非組合員の数が組合員に比較して多くなつているところから、控訴人らは、被控訴人が昇格にあたつて組合員を差別しているかのごとく主張しているが、従前の昇格事例をみても、相当数の組合員が昇格の対象とされており、このような従前の昇格事例について組合員差別があるというような抗議、苦情は全くされていない。

理由

一  当裁判所は被控訴人の本訴請求は認容すべきものと判断する。その理由は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

1  原判決四一枚目表一〇行目の「証人猫田肇」の次に「参加人城間恒」を加え、同行目の「証人」の次に「(ただし、右参加人城間恒の供述中後記信用しない部分を除く。)」と訂正する。

2  同四九枚目表四行目の「例もある。」の次に、「以上の認定に反する参加人城間恒の供述は前掲各証拠と対比して容易に信用できない。」を加える。

3  同四九枚目裏八行目の「三、」の次に、「成立に争いのない乙第一三三号証によつて真正に成立したと認められる甲第一一号証、右甲第一一号証により真正に成立したと認められる甲第九、第一〇号証の各一、二」を加える。

4  同四九枚目裏九行目の「甲第九、一〇号証の各一、二、同第一一号証」を削る。

5  同五〇枚目表二~三行目の「各証言」の次に、「参加人城間恒の供述」を加える。

6  同五〇枚目表三行目の「認められる」の次に「(ただし、右参加人城間恒の供述中後記信用しない部分を除く。)」を加える。

7  同五四枚目裏一行目の「である。」の次に、「(ただし、重量の換算につき一部誤記があるが、右評価を左右するものではない。)」を加える。

8  同五四枚目裏一一行目の「付記してあつた」の次に、「(ただし、極く一部に誤記があるが、右資料及び作成の努力についての評価を左右する程のものではない。)」を加える。

9  同五九枚目表六行目の「乙第一六七号証」を「乙第一五四号証」と訂正する。

10  同六〇枚目表五行目の「ロスアンゼルス」を「サンフランシスコ」と訂正する。

11  同六六枚目表四行目の「ない。」の次に、「以上の認定に反する参加人城間恒の供述は前掲各証拠と対比して容易に信用できない。」を加える。

12  同七二枚目裏三行目の「解される。」の次に、「このことは、参加人城間本人自身そのように認識していることが参加人城間恒の供述によつても明らかである。」を加える。

13  同八〇枚目裏四行目~五行目の「乙第一五六号証により真正に成立したものと認められる」を「成立に争いのない」と訂正する。

二  控訴人らは、当審において、被控訴人が昭和六〇年一一月一五日付で発表した昇格等の人事異動に照らせば、本件は不当労働行為になると主張する。右主張どおりの人事異動の発表がなされたことについては当事者間に争いがないところ、当審における証人大橋弘道の証言及び控訴人(参加人組合)代表者松岡民生本人尋問の結果によれば、それらの人事異動は被控訴人の職域の各部門にわたつてなされた全体的なものであつて、予約課にのみ関するものではなく、また、最近における航空業界の競争の激化に対応した営業政策による必要からなされたものであること(予約課から二名、旅客課から一名、以上三名がいずれも予約課のスーパーバイザーに昇格したとの点についても、昭和六〇年一〇月電話システムの変更に伴い全ての時間帯にわたり予約受付の電話をスーパーバイザーが直接監督できる体制をとることになつたことによるものであること。)が認められるから、右人事異動があつたことから直ちにもつて城間の右不昇格を不当労働行為と目すことはできず、また、右人事異動のほか、原判決認定の過去における労使関係、城間の組合活動歴等を合わせ考えても、未だこれらの主張を首肯するに足りない。

三  その他当審における証拠を加えて検討しても、原判決の認定判断を左右することはできないから、被控訴人の請求は理由がある。

なお、本件は第一審被告東京都地方労働委員会から適法な控訴がなされたものであるが、本件記録によれば、参加人らはいずれも行訴法二二条に基づく訴訟参加人であることが明らかであるから、同条四項による民訴法六二条の準用により被参加人たる控訴人東京都地方労働委員会との間で必要的共同訴訟における共同訴訟人に準ずる地位に立つものというべきであり、同控訴人から控訴の申立てがなされたことにより、その効力は参加人らについても及び、参加人らもまた控訴人たる地位を取得したものというべきである。

四  以上の理由により、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により本件控訴を棄却する。

訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法九五条九三条八九条適用

(裁判官 武藤春光 菅本宣太郎 秋山賢三)

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